これからの数分間、あなたの目は、あなたの身体を離れて……
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「博士。電子顕微鏡みたいなものですか」
記者会見を開くには不似合いな場所だった。窓もなく不自然な高さに小さな換気扇があるだけの蒸し暑い部屋は、半地下式倉庫の一部をろくに改装もせずに研究室にしたらしい。
約束の時間よりだいぶ早く待ち合わせ場所に着いてしまった。
暇だ。
携帯電話のゲームはどれもクソゲーだ。やり始めた途端にもう虚しくなる。
まだこれなら梱包材のプチプチでも潰している方が悟りでも開けるのではないか。
「うーん、すみません」店員はろくに調べもせずに即答した。「お客様ご希望のモデルはもう生産を終了してだいぶ経っておりましてね。メーカーにまだ交換部品がストックされているかどうかは探してみないと。…それよりいかがです、最新型の方がむしろお値段もぐっとお得ですよ。超音波コアレスモーターで音もしませんし」
私は耳を疑った。「音がしない!? おい待てよ、心臓だぞ!?」
夜空を焦がす夏の花火…なんて叙情的な表現があるが、今まさに俺の頭上の空は異様な色の焔で焦げっぱなしだ。
だが幼い頃から映画やドキュメンタリーで何度も見ていたからだろうか、妙なことにその光景には懐かしささえ感じる。勿論、その頃我が国は頭が呆けるほどに平和で、テレビを点けても、お座なりなドラマや無意味な情報もの、そしてくだらないお笑い番組ばかりの時代だった。
それ以外だとつまらない政治屋同士の討論番組か、聞いた事のない名前の国同士の戦争や、“もしも”の危機を伝えようと作られたドキュメンタリー番組があった。で、俺はけっこうそんなのが好きだった。
春に向けて庭仕事をしていた時のことだ。
しゃがみ込んで…というよりは、うずくまるようにして球根を植えるために植木鉢を抱いて作業していたら、ふと視線を感じた。
それはレーダーを見るまでもなかった。この辺境惑星の基地にしつらえられた貧弱な設備など使わなくても、すでに観測室の窓越しの肉眼で円盤状に見えていたからだ。
数日前に見つかった、この惑星との衝突コースに乗った小天体だ。
「おい香川」
ランチタイムには遅すぎるオープンカフェで中年男ふたりという、目立ちすぎる構図の中で同僚の宮本はヌッと僕に顔を寄せてきてささやいた。
「メンタマだけ動かして、そっと右の奥の席を見ろ。とんでもないやつがいる!」
「ふうん?」
「名前を聞いたらお前もそんな悠長な態度じゃいられないぜ。ほら、五年前に俺らが逮捕した凶悪犯!」
僕は今すごく後悔している。
連日の残業が祟って夜目が利かなかったとはいえ、よりによってこんなタクシーを拾ってしまうとは。
路肩に車を寄せてきた時、後に続く車のヘッドランプに浮かび上がる影でやけに大柄な運転手だな、と思った。
だが室内灯が点ってそうでない事が解った。運転手は、前かがみになってハンドルにかじりついていたのだ。
たまたまその姿勢なんだろうと思ったが、これも違った。走り出してもそのままの姿勢で運転をしているのだ。いくら僕が免許を持ってなくても、こんな姿勢でちゃんと運転できるものなのだろうかと、10mと走らないうちにもう不安に襲われていた。
「植物には、常に微弱な電流が流れています。」
教授は白衣のポケットに手を突っ込んだまま、記者たちの方へくるり、と向き直った。
「ほう。それが今回の研究の成果ですか」メモを取りながら一人の記者が顔も上げずに質問した。
話の腰を折られた教授はムッとしたが、マスコミは敵に回すなという学長の言葉を思いだした。
「そう結論を急がずに。会見は始まったばかりですよ。…いいですか、植物には、微弱な電流が流れている。でもその事はずいぶん昔から知られている事なんです。ただし、その電流が植物にとってどんな役割なのかは永らく解らなかった」
アパートの外では、昨夜からの小ぬか雨がまだ降り続いている。
まだ、梅雨入りではない筈だが、ひどい蒸し暑さだ。2Kの狭苦しい都会の古アパートに刑事1人鑑識3人、ホトケさんも入れると5人も詰め込まれてるものだから、たまったものではない。
一応エアコンは設置されているが、商売柄それを点けるわけにもいかない。
俺たちの仕事は、被害者や加害者が残した証拠をうぶ毛一本、ホコリひと粒といえども逃さず見つけ出すこと。事件の動機や理由はどうでもいい。ひたすら死因と経過を究明する事だ。
男が得体の知れない夢にうなされて眼が覚めると、まだあたりは真っ暗だった。
しん、と静まりかえった独特の吸音感に、今が真夜中だということだけは解る。
おやすみタイマーをセットしたはずのテレビは、なぜか画面の端に“ビデオ1”と緑色で表示したまま、ときどき不規則にゆらめく黒い画面をえんえんと映し出している。
「あっ。こんなとこにおったんか。おーいアキラ、このまえ貸したマンガ、あれ、もぉええやろ。ぼちぼち返してくれや」
「…あっっ。サトシ。悪い。あれ、ユタカに貸してもた」
電子書籍閲覧装置…通称『e-Paper』で今週の少年サンデーを読んでいたアキラはけろりとした表情で平然と言ってのけた。
「ええええ、なにすんねんな、人の本を勝手に。おまえそれ、又貸しゆうて最低の───」
彼らが言うところの『本』に実体はない。e-Paperに読み込ませることで初めて読むことができるようになる一種のデータだからだ。
今夜もひたすらに忙しいだけで中身のないハードワークを終えて帰宅すると、あたしは身も心も清めて自分に還るためお風呂に入る。夕食はさっき夜食に食べたしょぼいサンドイッチやおにぎりがその代わりになってしまってる。
たまには温かいものが欲しいけど、カップラーメンも似たような味ばっかりだし、ひと通り食べて何回かローテーションしたらもううんざり。

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