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2010年8月 7日 (土)

第59幕/シートベルトは壊れていた

 僕は今すごく後悔している。
 連日の残業が祟って夜目が利かなかったとはいえ、よりによってこんなタクシーを拾ってしまうとは。
 路肩に車を寄せてきた時、後に続く車のヘッドランプに浮かび上がる影でやけに大柄な運転手だな、と思った。
 だが室内灯が点ってそうでない事が解った。運転手は、前かがみになってハンドルにかじりついていたのだ。
 たまたまその姿勢なんだろうと思ったが、これも違った。走り出してもそのままの姿勢で運転をしているのだ。いくら僕が免許を持ってなくても、こんな姿勢でちゃんと運転できるものなのだろうかと、10mと走らないうちにもう不安に襲われていた。
 

 よくドラマで事故った車の運転手が頭から血を流しながらハンドルに突っ伏している構図があるが、まさにそんな感じで運転しているのだ。
 しかもドアを閉めるなり「私、来たばかりで道を知らないんです」とカミングアウトされた。僕だって駅からの通勤路以外の道なんか知らない。「カーナビはないんですか」と訊くと「まだ入社したてで会社では買って貰えなくて」といきなり愚痴られる仕末。

 幸い、ほぼ毎晩タクシー帰りという贅沢な身分だったので、道順くらいは説明できる。なので、大きな通りの名を告げ、ざっくりとした行き方を伝えた。
「それ、どっちでしょうか」
 絶句するしかない。この街のメインストリートを告げて、そう訊き返されては次に打つ手などあるわけがない。
「困ったなあ。どう説明すればいいのか…とりあえず、このまままっすぐ走ってください。見覚えのある場所に来たら早めに指示しますから」
 どうも、と彼は言ったが、悪びれた様子のない声だ。たぶん、ずっとこんな調子で客に道を教わりながら走ってるんだろう。だから尚更覚えられないんじゃないのか。
 今にして思えばドアが開いた時、適当に誤魔化して見送れば良かったのだ…間違いだとかなんとか。

 とりあえず、この道を十数キロは西進しなければならない。その間くらいは落ち着けるだろう。もうこんな具合の深夜残業がふた月は続いている。もぉヘトヘトだ。
 休日はあるが、溜まった疲れで寝潰すだけ。もぉ、生きるために仕事してるのか、仕事のために生きてるのか分からないなあ、などと暗い気持ちになりながら、無意識にシートをまさぐってて気がついた。

「あのう、このベルト、締まらないんですけど」
「大丈夫ですよ。壊れてますが」
 壊れてて大丈夫だって?そんな僕の表情を別な意味に受け取ったのか、「大丈夫ですよ。あくまで奨励ですし、警官は気にしませんし」
 うそつけ。じゃあ義務づけられたと書かれたこの窓のステッカーは何だ。だいいち、罰則とかなんとかじゃなくて、その変な運転のせいで事故った時は、僕は変な格好で運転してるあんたの横からそのフロントガラスに突っ込むんだぞ。
 そう焦ってたらベルトが不意にがちゃり、と締まった。

 先週も変な運転手にひっかかった。どうも僕はタクシーと相性が良くない。
 身の上話はむしろ普通な方だ。子供がいい学校へ行ってるとか、自分は以前羽振りの良い会社の社長だったけど今は───みたいな調子だ。
 聞かされるこっちはたまらない。疲れてて少しでも寝たいのだ。
 方向音痴の運転手も珍しくない。この前のヤツは道に迷い、この大通りにさえたどり着けず、電車ならたった2分の隣の駅が見えるまで小一時間も彷徨っていたのだ。

 この運転手は何も喋らないが、それ以前にこの独創的な運転姿勢には興味をそそられずにいられない。変な姿勢だが、上手いのかどうなんだか、横揺れもさせずに前の車をうまく抜いてゆく。信号にもひっかからず、無駄なブレーキも踏んでいないように思える。

 ところで今はどこだ。あっ。あの陸橋。「す、すみません。あの陸橋の交差点を右へ……あ。あああっ」
 行き過ぎた!ブレーキを踏むとか慌てた様子もなく、見事に僕の指示を無視してまっすぐ進んでしまったのだ。「う、運転手さん!今、今の曲がり角!戻って、戻って!」
「大丈夫ですよ。」
 いや、大丈夫じゃない。この先はたしか道が細くなり一方通行になって、戻るのが大変になるのだ。例の道に迷いまくった運転手の時にその目に遭ったからよく分かっているのである。
 前は本来45分で帰れる距離を3時間かかった。今夜はどうなる?ともあれ、前回に入った横道を指示するが、一向に従わない。ついにキレた僕は怒鳴った。
「止めろ!降りる!」
「大丈夫ですよ」
 気づくべきだった。声は運転手からしていないことに。

 ベルトは確かに壊れている。今度は外れないのだ。

 気づくべきだった。“この”運転手は……運転していない事に。

 いま、僕はものすごく後悔している。


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───おわり───

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