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2010年10月11日 (月)

第60幕/過去は、過去。

「おい香川」
 ランチタイムには遅すぎるオープンカフェで中年男ふたりという、目立ちすぎる構図の中で同僚の宮本はヌッと僕に顔を寄せてきてささやいた。
「メンタマだけ動かして、そっと右の奥の席を見ろ。とんでもないやつがいる!」
「ふうん?」
「名前を聞いたらお前もそんな悠長な態度じゃいられないぜ。ほら、五年前に俺らが逮捕した凶悪犯!」

「多すぎて分かるかよ。どれの事だよ」
「ほれ。見出しはこうだ…深夜の繁華街、日本刀による通りすがりの無差別切り裂き魔」
「あ、日本の切裂ジャックか。あれはひどかった…安物のなまくら刀の試し斬りを毎晩毎晩やりやがったキ印。テレビでも毎晩そのニュースで持ちきりだった…で。それがどうした」
「今そこに居るんだよ!フツーに茶かなんか飲んでやがる。しかもだ、まわりの誰もそのことに気づかねぇときてるんだ!」
「お前、何言ってるんだ。あいつに刑の執行があったんだよ。通知が廻ってきたろうが」
「刑?」
「初期化刑だよ。先週執行されたって通知が」
 宮本はあぜんとしている。ショックを受けた為の反応ではない事は、こいつのルーズさを知っている俺としては予測できる範囲だ。
「おまえ。理解してないな。てか、署内回覧読まねぇなら、せめてニュースくらいは見ろよ」

 人類は何世紀もの間、凶悪重犯罪者を極刑、即ち死刑にする事への賛成派と反対派に別れて議論を戦わせてきた。
 しかしその論旨や内容は基本的に大昔から大差なく、いつの時代も常に平行線を辿っては、やがて堂々巡りである。
 また有罪・冤罪に関係なく、死刑宣告や処刑の手段は数限りなくある。だがどんな殺され方になろうとも、待ち受けるのは確実な『死』であり、死とは精神の容れ物である肉体が滅びることで、持ち主の人格や記憶、そして存在が消滅する事を意味し、同時に精神のみの死もまた死であるとされる。

 だがここにきて、科学と医学の発達が、ついに“心”のみの処刑を可能にした。
 正確には、脳機能を壊さない程度にいじれる、というだけの小手先技に過ぎないのだが、それでも記憶や思考を支配する領域──すなわち心──に第三者が直接介入し、ある程度操作できるようになった事は画期的だった。
 もちろん、倫理や宗教上の立場では議論が絶える事はなかったが、少なくともこのテクノロジーが新しいカタチの『極刑』を誕生させた事は確かだ。
 心は記憶の集積と無限の選択肢の中から生まれる。だから完全に記憶を初期化すれば別人に生まれ変わるという寸法だ。

 初期化刑は、文字通りすべてを“ご破算”にする。本人の記憶だけでなく、近しい人は勿論、ネットワークを通じて全国の人々に対しても、受刑者の存在記憶を消去するのだ。
 ただし、俺たちのような警察関係者は別。在任中は特別措置として記憶操作拒否素子を埋め込まれて対象外だ。だから、どれだけマスコミを喜ばせた重犯罪人であろうとも、一般大衆にとってはすでに忘れ去られている。
 なぜなら、今俺たちの近くでくつろいでいる男はすでに『別人』だからだ。

「納得いかんなあ。ほんとにあいつ、別人になってるのか?」
「まわりにいる人の反応を観ろ。あれだけテレビに出てたのに、今や誰一人としてヤツの事を知る人はない。」
「それにしてもなんでそんな面倒な事を」
「家電に例えるなら、故障したからといってすぐに廃棄してては製造コストも時間もみんな無駄になるだろ?一種のリサイクルさ。これだけ人口が減ってるんだ。21世紀の半分以下だ。一人前の人間ひとりを無事に大人になるまで成長させるためのコストがどれだけ掛かるか考えてみろよ」
「俺ぁ製品じゃねぇよ」
「分かってるよ。製品だったら返品ものの不良品だからな」
「ぬかせ」

 宮本の調子だと、渡された事も忘れているであろう『関係者外秘 初期化刑通達マニュアル』によれば、刑を受けたものには、仮の記憶が植え付けられているとあった。完全な記憶喪失では、押し寄せる不安感から逃れるために、かえって以前の事を知ろうとして様々な障害が出る可能性があるからだ、とも。
 しかし実際問題として、先に喋った“心は”仮の記憶主の性格に似てしまうのではないのか。いや、自分をそのモデルの人物と同一視しないのだろうか。

 それも気になるが、俺には口が裂けても宮本には言えない事がある。
 実は、こいつもロクでもない事をしでかして数年前に初期化刑を受けたクチなのだ。俺自身がこいつを逮捕し、立件した。もちろん、宮本───昔は違う名前だったが───は何も憶えていない。今は俺の相棒、宮本刑事だ。
 法律で、初期化刑を受けたものにはいかなる差別も加えられない。だからこの職業を選ぶ事も可能なのだ。

 しかし、俺もそうでないと誰が言えるのだろうか。まあいい。過去は過去、今は今の俺が俺を生きれば良い事だ。


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───おわり───


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