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2011年11月14日 (月)

第66幕/絶対視点

「博士。電子顕微鏡みたいなものですか」
 記者会見を開くには不似合いな場所だった。窓もなく不自然な高さに小さな換気扇があるだけの蒸し暑い部屋は、半地下式倉庫の一部をろくに改装もせずに研究室にしたらしい。

「光学的に物質を捕らえるのではない所は似ているが最大の相違点は、非破壊状態でいかなる空間のいかなる位置からでも映像を再構成して表示できるところにある。」

「あの。もっと我々にも解る説明を」
「つまりだ」と言葉を切ると、ペットボトルの水を飲んだ。蒸し暑い部屋で水滴ひとつ付いていない所を見ると、よほどぬるいのだろう。

「望むままの視点から、ありとあらゆるモノを自在に観察できるカメラだ」
「ええと、普通のカメラと何が違うので?」
「なるほど。確かにそうだ。例をお目にかけよう」
 博士は部屋を見回した。実験用具や雑然と積まれた書類と本、他は錆びて無意味に大きなスチールラックにいくつもの古びた段ボール箱が乱雑に並んでいるのみだ。

「先生。記者さんたちにお茶を出してあげようか?」
 ひょいと声を掛けてきたのは学校で雇われている掃除婦の女性だった。「気を使ってくれてありがとう、でも今はいいよ、大事な発表の最中なんでね」
「はいよ」

「親切で僕に毎朝美味しいコーヒーを淹れてくれるんだ…続けよう。じゃあ、このモニタを観てくれ給え。某PCメーカーの発表みたいに立派なプレゼンでなくて申し訳ないが」
 キーボードに指を速弾きのごとく走らせると、画面いっぱいに毒々しい色のキャンデーが映し出された。
「すまないがそこの君、そこの箱を取ってきてもらえないだろうか」
「はあ」と指名された記者が持ってきた箱には、さっきの毒色キャンデーが詰まった昔風のガラスのジャーが入っているだけだった。

「中にカメラは入ってないだろ?」
「はい…えっ!?」たしかに小さなジャーにも箱にも、種も仕掛けもなかった。「でも事前に撮影しとけば…」と博士の方を観た記者がウッ、と唸った。
 博士の傍らのモニターには、キャンデーの隙間を通して箱を覗き込む自分たちの顔も映っていたからだ。
 奇妙な現象に気づいた記者たちは画面とキャンデーを交互に見比べ続けた。

「間違いなくライブ映像だろ?そう。そしてこれが私が発明した──」科学者はおもむろに、PCの横に意味ありげに布を掛けて置かれていた物から、勢いよく布を取った。布はコーヒーのシミだらけの白衣だったが。

「絶対視点カメラだ」

 白衣の下から現れたのは、古びたコーヒーメーカーだった。
 誰もが目を疑ったが、どう見てもフィリップス社製の古いそれだった。ただし、その中心から淡い緑色の光を放っていた。
「こ、これは」
「ああ、外側はお察しの通りのものだよ。この直径、この深さ、ガラスの厚さがまさに心臓移植のドナー並の確率で適合したので流用したんだ。だが」この中心には文字通り、この世の物でないものが収まっていると誇らしげに続けた。

 そう言われてもガラクタにしか見えないがそこはプロ、気を取り直して本題に斬り込んだ。「いかなる空間、位置でも見られるって仰いましたよね」
「そうまさに」科学者はここぞと両手を拡げ宣言した。「神の眼だ。本体はコレだが、レンズに相当するものは超空間にあるからどこにでも動かせるんだ…さあ」

 博士の操るままに視点はジャーから飛びだして、記者たちのカバンの中味から手帳の文章、果ては彼ら自身の断面画像まで見せた。
「全部まるっとお見通し。炎の中で焼かれる陶器からの視点、地球の裏側でイワシを追っかけてる鯨の腹の中、封印された宝物庫、シチュー鍋の中、ドブに落としたコインの視点──」
 記者たちはその凄さにようやく気づいて必死にメモを録りだした。
「座標を指定すれば、宇宙のいかなる地点いかなる場所の映像もリアルタイムで得られるはずだ。理論上。」というのは、ちゃちなPCでは電力も能力も足りず、ロストしてしまう危険性があったからだ。
 でも何万光年彼方の星でも今この時を観ることができるのだ。それも好きな距離、自由な位置から。望めば爆発する超新星の燃え盛るコロナの中にさえ視点を据えられる。

 興奮した記者たちの大絶賛を受け、その夜は記者たちと酒盛りになっていった。

 次の朝、二日酔いの頭を押さえながら“世紀の発表会場”だったテーブルを見るなり、「うそ」と言い残してカッと眼を見開いたまま科学者はその場で卒倒した。

 神の目が入っていた筈のガラスのジャグからは湯気が立ち上のぼり、芳香を放つコーヒーがなみなみと注がれていた。
 後、神の眼はコーヒーメーカーとしてその存在を終え、科学者は幸いにも全ての記憶を失ったままで生涯を終えた。


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───おわり───

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